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コンサルティング

「病名」だけ言うコンサルタント

2025年01月22日

「どの会社も問題点は一緒なんだよ」

先日、ある業務改善レポートの発表会に参加した。複数の企業が自社の課題分析結果を発表し、コンサルタントがコメントを加える形式だった。

質疑応答で、ある経営者がこう言った。

「どの会社も問題点は一緒なんだよ。それで、そこからどうするんだ?」

会場が静まった。


病名を告げるだけの医者

多くのコンサルティングは、病名を告げるだけの医者に似ている。

「御社は人手不足です」 「業務プロセスに非効率があります」 「デジタル化が遅れています」

これは、患者に向かって「あなたは痛風です」「コレステロール値が高いです」と言っているのと同じだ。

患者はすでに知っている。

膝が痛いから病院に来た。健康診断で数値が悪かったから相談に来た。問題があることは、本人が一番分かっている。


可視化の罠

「まず現状を可視化しましょう」

これはコンサルティングの定番フレーズだ。業務フローを図にする。工数を計測する。ボトルネックを特定する。

そして立派なレポートができあがる。

  • 月間○○時間の無駄が発生しています
  • この業務は属人化しています
  • 情報共有に課題があります

それで?

数値を可視化したところで、問題が解決するわけではない。コレステロール値を毎日測っても、コレステロールは下がらない。

可視化は手段であって、目的ではない。


診断と治療は違う

医療において、診断と治療はまったく別のプロセスだ。

診断は、症状から病名を特定すること。 治療は、その病気を実際に治すこと。

同じ「痛風」でも、患者によって背景は異なる。

  • 食生活の問題なのか
  • 運動不足なのか
  • 遺伝的要因なのか
  • ストレスが原因なのか

だから治療法も一人ひとり違う。

  • 食事制限が必要な人
  • 運動習慣を作るべき人
  • 薬物療法が適切な人
  • まず生活リズムを整えるべき人

同じ病名でも、処方は違う。


なぜコンサルは診断で止まるのか

診断は比較的簡単だ。フレームワークを当てはめれば、それらしい分析ができる。

  • SWOT分析
  • バリューチェーン分析
  • 業務フロー可視化

これらは「型」があるから、経験が浅くても形にできる。

しかし治療は難しい。なぜなら——

  1. 個別性が高い:同じ症状でも、会社ごとに最適解が違う
  2. 実行が伴う:計画を立てるだけでなく、実際に変えなければならない
  3. 抵抗がある:人は変化を嫌う。組織はもっと嫌う
  4. 時間がかかる:生活習慣病は一朝一夕には治らない

診断なら数週間で終わる。治療は数年かかることもある。

だから多くのコンサルタントは、診断だけして去っていく。


「運動しましょう」では誰も動かない

仮に治療方針を示したとしても、抽象的なアドバイスは役に立たない。

「運動しましょう」 「食生活を改善しましょう」 「業務を標準化しましょう」

分かっている。それができないから困っている。

本当に必要なのは——

  • 具体的な行動:何を、いつ、どうやるのか
  • 継続の仕組み:どうすれば続けられるのか
  • 小さな成功体験:最初の一歩で効果を実感できるか
  • 伴走:挫折しそうなとき、誰が支えるのか

「毎朝7時に15分歩く。雨の日は室内でストレッチ。週1回、体重を記録する。月1回、一緒に振り返る」

ここまで具体化して、初めて「治療」と呼べる。


業務改善における「治療」とは

建設業の業務改善を例に考える。

診断(よくあるパターン)

  • 「工事台帳が属人化しています」
  • 「原価管理がリアルタイムでできていません」
  • 「情報共有に時間がかかっています」

治療(本来必要なこと)

| 症状 | 処方 | 具体的な行動 | |------|------|-------------| | 工事台帳の属人化 | 入力ルールの標準化 | 毎週金曜15時に30分、台帳レビュー会を実施。最初の1ヶ月は私が同席する | | 原価管理の遅れ | 日次入力の習慣化 | 現場から戻ったら5分で入力。スマホアプリを導入し、移動中に完了できる仕組みを作る | | 情報共有の遅延 | 朝礼のデジタル化 | 毎朝8:00にチャットで3行報告。テンプレートを用意し、考えなくても書けるようにする |

違いが分かるだろうか。

診断は「何が悪いか」を言う。 治療は「どう変えるか」を示し、一緒に変える


本当のコンサルティングとは

私は28年間、700社以上の建設会社を支援してきた。

その経験から言えることがある。

問題点はどの会社も似ている。 しかし、解決策は一社一社違う。

同じ「原価管理ができていない」でも——

  • 50人の会社と500人の会社では、やり方が違う
  • 土木メインと建築メインでは、管理項目が違う
  • ベテラン中心と若手中心では、導入の進め方が違う
  • 社長のITリテラシーによって、使えるツールが違う

だから、フレームワークを当てはめて「こうすべきです」と言うだけでは、何も変わらない。

その会社の、その現場の、その人に合った「処方箋」を書く。 そして、効果が出るまで伴走する。

これが、本当のコンサルティングだと考えている。


まとめ:診断から治療へ

  • 「人手不足」「業務が非効率」——それは診断であって治療ではない
  • 可視化は手段であり、目的ではない
  • 同じ病名でも、背景が違えば処方は変わる
  • 抽象的なアドバイスでは誰も動かない
  • 具体的な行動と、継続の仕組みと、伴走が必要

業務改善レポートを作ることが目的になっていないか。 「御社の課題は○○です」と言って満足していないか。

診断で止まるな。治療まで踏み込め。

それが、業務改善の本質だ。

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