「病名」だけ言うコンサルタント
「どの会社も問題点は一緒なんだよ」
先日、ある業務改善レポートの発表会に参加した。複数の企業が自社の課題分析結果を発表し、コンサルタントがコメントを加える形式だった。
質疑応答で、ある経営者がこう言った。
「どの会社も問題点は一緒なんだよ。それで、そこからどうするんだ?」
会場が静まった。
病名を告げるだけの医者
多くのコンサルティングは、病名を告げるだけの医者に似ている。
「御社は人手不足です」 「業務プロセスに非効率があります」 「デジタル化が遅れています」
これは、患者に向かって「あなたは痛風です」「コレステロール値が高いです」と言っているのと同じだ。
患者はすでに知っている。
膝が痛いから病院に来た。健康診断で数値が悪かったから相談に来た。問題があることは、本人が一番分かっている。
可視化の罠
「まず現状を可視化しましょう」
これはコンサルティングの定番フレーズだ。業務フローを図にする。工数を計測する。ボトルネックを特定する。
そして立派なレポートができあがる。
- 月間○○時間の無駄が発生しています
- この業務は属人化しています
- 情報共有に課題があります
それで?
数値を可視化したところで、問題が解決するわけではない。コレステロール値を毎日測っても、コレステロールは下がらない。
可視化は手段であって、目的ではない。
診断と治療は違う
医療において、診断と治療はまったく別のプロセスだ。
診断は、症状から病名を特定すること。 治療は、その病気を実際に治すこと。
同じ「痛風」でも、患者によって背景は異なる。
- 食生活の問題なのか
- 運動不足なのか
- 遺伝的要因なのか
- ストレスが原因なのか
だから治療法も一人ひとり違う。
- 食事制限が必要な人
- 運動習慣を作るべき人
- 薬物療法が適切な人
- まず生活リズムを整えるべき人
同じ病名でも、処方は違う。
なぜコンサルは診断で止まるのか
診断は比較的簡単だ。フレームワークを当てはめれば、それらしい分析ができる。
- SWOT分析
- バリューチェーン分析
- 業務フロー可視化
これらは「型」があるから、経験が浅くても形にできる。
しかし治療は難しい。なぜなら——
- 個別性が高い:同じ症状でも、会社ごとに最適解が違う
- 実行が伴う:計画を立てるだけでなく、実際に変えなければならない
- 抵抗がある:人は変化を嫌う。組織はもっと嫌う
- 時間がかかる:生活習慣病は一朝一夕には治らない
診断なら数週間で終わる。治療は数年かかることもある。
だから多くのコンサルタントは、診断だけして去っていく。
「運動しましょう」では誰も動かない
仮に治療方針を示したとしても、抽象的なアドバイスは役に立たない。
「運動しましょう」 「食生活を改善しましょう」 「業務を標準化しましょう」
分かっている。それができないから困っている。
本当に必要なのは——
- 具体的な行動:何を、いつ、どうやるのか
- 継続の仕組み:どうすれば続けられるのか
- 小さな成功体験:最初の一歩で効果を実感できるか
- 伴走:挫折しそうなとき、誰が支えるのか
「毎朝7時に15分歩く。雨の日は室内でストレッチ。週1回、体重を記録する。月1回、一緒に振り返る」
ここまで具体化して、初めて「治療」と呼べる。
業務改善における「治療」とは
建設業の業務改善を例に考える。
診断(よくあるパターン)
- 「工事台帳が属人化しています」
- 「原価管理がリアルタイムでできていません」
- 「情報共有に時間がかかっています」
治療(本来必要なこと)
| 症状 | 処方 | 具体的な行動 | |------|------|-------------| | 工事台帳の属人化 | 入力ルールの標準化 | 毎週金曜15時に30分、台帳レビュー会を実施。最初の1ヶ月は私が同席する | | 原価管理の遅れ | 日次入力の習慣化 | 現場から戻ったら5分で入力。スマホアプリを導入し、移動中に完了できる仕組みを作る | | 情報共有の遅延 | 朝礼のデジタル化 | 毎朝8:00にチャットで3行報告。テンプレートを用意し、考えなくても書けるようにする |
違いが分かるだろうか。
診断は「何が悪いか」を言う。 治療は「どう変えるか」を示し、一緒に変える。
本当のコンサルティングとは
私は28年間、700社以上の建設会社を支援してきた。
その経験から言えることがある。
問題点はどの会社も似ている。 しかし、解決策は一社一社違う。
同じ「原価管理ができていない」でも——
- 50人の会社と500人の会社では、やり方が違う
- 土木メインと建築メインでは、管理項目が違う
- ベテラン中心と若手中心では、導入の進め方が違う
- 社長のITリテラシーによって、使えるツールが違う
だから、フレームワークを当てはめて「こうすべきです」と言うだけでは、何も変わらない。
その会社の、その現場の、その人に合った「処方箋」を書く。 そして、効果が出るまで伴走する。
これが、本当のコンサルティングだと考えている。
まとめ:診断から治療へ
- 「人手不足」「業務が非効率」——それは診断であって治療ではない
- 可視化は手段であり、目的ではない
- 同じ病名でも、背景が違えば処方は変わる
- 抽象的なアドバイスでは誰も動かない
- 具体的な行動と、継続の仕組みと、伴走が必要
業務改善レポートを作ることが目的になっていないか。 「御社の課題は○○です」と言って満足していないか。
診断で止まるな。治療まで踏み込め。
それが、業務改善の本質だ。